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東京地方裁判所 平成元年(ワ)7152号 判決

原告 真島積

右訴訟代理人弁護士 小池通雄

被告 日の出興業株式会社

右代表者代表取締役 三浦三男

右訴訟代理人弁護士 井上由理

同右 野村茂樹

同右 藤田浩司

主文

一、本件訴えを却下する。

二、訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告が昭和六三年一二月三日にした額面普通株式二万一〇〇〇株の新株発行を無効とする。

2. 訴訟費用は、被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 本案前の答弁

主文と同趣旨

2. 本案に対する答弁

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1. 被告は、昭和三七年八月二日に成立した株式会社であり、昭和六三年五月当時の発行済株式の総数は、一万株であった。

2. 訴外真島栄松(以下「栄松」という。)は、被告の記名株式八七五〇株(以下「本件株式」という。)を有する被告の株主であった。

3.(1) 原告は、昭和六三年五月、栄松から本件株式の譲渡を受け、かつ、その株券(以下「本件株券」という。)の交付を受けて現在これを所持している。

(2) 原告は、昭和六三年七月、被告に対し、書面により、右株式の譲渡の承認を請求するとともに、承認をしないときは、買受人となるべき者を指定すべき旨請求したが、被告は、これに対し、なんらの応答をしなかった。

(3) したがって、原告は、それ以降、被告の株主である。

4. 被告は、昭和六三年一二月三日、額面普通株式二万一〇〇〇株の新株の発行をした。

5. 右新株発行(以下「本件新株発行」という。)は、過半数の株式を取得して支配的株主となった原告に秘匿してなされたものであり、かつ、経営上の必要性も合理性もないにもかかわらず原告を被告の経営から排除することのみを目的としてなされた著しく不公正な方法によるものである。

6. よって、原告は、被告の株主として、本件新株発行を無効とすることを求める。

二、請求の原因に対する認否

1. 第1項及び第2項の事実は、認める。

2.(1) 第3項(1)の事実は、否認する。

(2) 同項(2)の事実は、認める。ただし、当時、被告の定款には株式の譲渡制限に関する定めはなかった。

(3) 同項(3)は、争う。原告は、被告に対して本件株券を呈示して名義書換えを求めたことはない。したがって、仮に原告が栄松から本件株式の譲渡を受けていたとしても、原告は、本件株式の取得を被告に対抗することはできず、したがって、被告の株主として本件訴えを適法に提起することはできない。

3. 第4項の事実は、認める。

4. 第5項の事実は、否認する。

5. 第6項は、争う。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、請求の原因第1項及び第2項の事実並びに第4項の事実は、当事者間に争いはない。

二、次に、弁論の全趣旨によると、原告は、平成二年二月二〇日の本件口頭弁論期日において甲第一号証の一ないし二八として本件株券を提出するまで、本件株券を被告に示したことはないこと、したがって、原告は、現在まで、被告に対し、本件株券を呈示して本件株式につき原告への名義書換えをすべき旨の請求をしたことはないことが認められる。そうすると、仮に原告において栄松から本件株式の譲渡を受けていたとしても、商法第二〇六条第一項により、原告は、被告に対し、本件株式の取得を対抗することができないから、株主として適法に本件訴えを提起・遂行することはできないことになる(なお、仮に原告が今後適法な名義書換えの請求をして本件株式の取得を被告に対抗することができるようになったとしても、被告との関係で原告が株主となるのは、その時点からであり、本件訴えの出訴期間(平成元年六月二日まで)が経過するまでの間、原告が被告の株主でなかったことに変化が生ずるわけではないから、本件訴えは適法に提起されたものとすることはできず、却下を免れない。)。

三、付言するに、原告が、昭和六三年七月、被告に対し、本件株式の栄松から原告への譲渡を承認すべき旨及び承認しない場合においては買受人を指定すべき旨の請求をしたこと、これに対し被告が現在まで何らの応答をしていないことは当事者間に争いはない。しかし、仮に、当時、被告の定款に株式の譲渡制限に関する規定があったとしても(また、譲受人からそのような承認請求の手続をすることができるという見解を採ったとしても)、被告が応答しないで放置していたことによっては、原告が真実、本件株式の譲渡を受けていた場合において被告の取締役会の承認がなくとも栄松から原告への譲渡が有効になされたことを被告に主張することができるという効果が生ずるに過ぎず、商法第二〇六条第一項(有効に株式を取得した者が会社に対してその取得を対抗するためには株券を呈示して名義書換えを受けなければならない。)の適用が排除されるわけではないから、原告としては、さらに本件株券を被告に呈示して自己への名義書換えを求める必要があったことになる。したがって、右のような事情があっても、原告において本件株券を呈示して名義書換えを求めていない以上、原告は、被告に対して、本件株式の取得を対抗することができないことになる。特に、本件においては、当時、被告の定款には株式の譲渡制限に関する規定はなかったのであるから(成立に争いのない乙第五号証と弁論の全趣旨による。)、原告の行った譲渡承認請求がなんらの意味を有しないことは明らかといわなければならない。そして、本件においては、法定の措置(株券の呈示と名義書換えの請求)を採っていなかった原告をあえて救済し、本件訴えにおける原告適格を認めるべき特段の事由は、これを見出すことができない。

四、よって、本件訴えは、不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡久幸治)

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